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森の熊さん それは、昔々の、遠いある国でのお話。 森の奥の小さなお城に、その国の王様とお姫さまが住んでおりました。国のお后さまは、お姫様がまだ小さい頃に病気でお亡くなりになっていました。 お后さまを深く深く愛していた王様は周囲の勧めには一切耳を貸さず、後添いを娶ることもせず、お后さまそっくりのお姫さまを男手ひとつで、それは大事に大事にお育てになりました。 その甲斐あって、お姫様は変にひねくれることもなく、素直にスクスクと育ちました。 ある日のことです。 『お父様のお誕生日にプレゼントするお花を摘みに行ってくるわ』と森へ出かけたお姫様が、日が落ちても、夜が更けても、お城に戻ってきません。 王様は半狂乱になり、国中の人間を総動員して、朝まで森を捜索しました。 しかし、見つかったのは、お姫様の小さな靴が片方だけ。 それから何日も何日も経って、王様がお姫様の笑顔を見ることは二度と叶わないのではないかとすっかり希望を失いかけた頃。 お姫様が帰ってきたのです。 一匹の熊と一緒に。 お姫様が辿々しく話した経緯を総合すると、綺麗な花を求めてどんどん森の奥に入っていくうちに、方向を見失い、靴を失い、途方にくれて泣きじゃくっているところを、その熊が助けてくれたというのです。 「私たち、お友達になったの。ねぇ、これからも一緒に遊んでいいでしょう?」 もう二度と見られないと覚悟していた、その笑顔を取り戻せた喜びに溢れていた王様は、一も二もなくそれにうなずき、 「ああ、勿論だとも。城の近くに彼の家を建てよう」 と言って、熊の為に大きな家を建ててやりました。 お姫様と熊は、それから、毎日毎日、天気のいい日は森へ散歩に出かけ、雨の日は熊の家で ゲームをしたり、お話をしたり、それはそれは仲良く過ごしました。 『いつか、お姫様はあの熊と結婚すると言い出すのではないか』と、冗談交じりに街の人たちが噂をするほどでした。 それから、数年が過ぎ・・・。 お姫様は成長して、それは美しい娘になりました。 近隣の国から、結婚の申し込みが毎日のようにやってきます。が、お姫様は、どんな良い話 にも、これっぽっちの興味を示さず、相変わらず、熊と遊んでばかり。 心配になった王様が訊ねます。 「お前は、本当にあの熊と結婚でもするつもりなのかい? あの熊は、お前の恩人で、それは私だって感謝しているけれど、熊ではこの国を治めることはできまい。もし、お前がそんなことを本気で考えているなら、私はそれを許すことはできないよ」 お姫様は、コロコロと笑って答えました。 「まぁ、お父様。私たちは誰よりも分かり合い、助け合える友人同士です。彼は私の半身みたいなもの。自分自身と結婚することはできませんわ」 そして、結婚の申し込みに興味を示さないのは、どの求婚者にも魅力を感じないからであり、今はまだ、熊と毎日を過ごしている方が楽しいのだ、と言いました。 本人がそう言うのなら、と王様は胸をなでおろすのでした。 お姫様は熊の家に行き、父親との会話の一部始終を熊に語って聞かせ、熊は、それを聞き ながら嬉しそうにそっと目を細めるのでした。 ところが。 何という運命の皮肉でしょう。 その翌日、お姫様は突然、恋に落ちました。 それは、隣の隣の国からやってきた王子さまでした。 彼をひと目見た途端、お姫様は自分の周りの空気がバラ色に染まるのを見たような気が しました。 胸の奥で鐘が高らかに鳴り響く音を聞きました。 お姫様は、高揚する気持ち聞いて貰おうと急いで熊の家に行きました。 「どうしましょう! あの人を見ていると私の胸の鼓動は止まることがありません。立って いても座っていても、眩暈がして、息が苦しくなります。こんな気持ちになったのは生まれ て初めて!!」 目をキラキラさせて、興奮気味に語るお姫様を、熊はやはり微笑みながら、ただ黙って眺めていました。 翌朝、早く。 正式に婚礼の手筈が整ったことを知らせに、お姫様は、熊の家に行きました。誰よりも最初に、彼に喜んで欲しいと思って。 しかし・・・熊は既にその家を去った後でした。 大きな木のテーブルの上には、小さな靴が片方だけ置かれていました。 それは、あの日、お姫様がなくした靴でした。 その後、どんなに探しても、熊がお姫様の前に現れることはありませんでした。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「・・・変な話。・・・で、やっぱり和式もいいかなって思うんだよね」 ・・・ダメか。 身体の力が一気に抜けた。 森の熊のように善良で、疑うことを知らないこの幼なじみには、この程度の例え話では、私の意志を伝えることは叶わないらしい。 『私、好きな人ができたの。だから、アナタとは結婚できない』 ・・・そうやって、そのものズバリを言わなきゃならないってことなのか!? うううう。できるだけ、それは避けたい。 だからこそ徹夜してこんな童話もどきをひねりだし、話して聞かせたのである。 苦肉の策である。 しかし、敢えなく撃沈。 やはり『美しい姫』っていう設定が拙かったんだろうか? それとも熊とヒトって辺りが?? ああ、早くしないと話がドンドン進んでしまう・・・。 っつーか、分かるだろうよ、普通! いい加減に気付けよ、私の言わんとしていること くらい! 満面の笑みで式場のパンフレットを広げる彼に、引きつった笑みを返しながら、脂汗を流して次の手段を必死に考える私なのだった。 |