夜光堂TOPそこ、零れてる!!僕んちのたんす



マリちゃんが行く!



マリちゃんが結婚してカイシャを辞める、と聞いたとき。無論、寂しいな〜、やだな〜と思ったけれど。
同時に、何だかホッとしたような・・・気もした。
我ながら薄情だと思うんだけれど。
マリちゃんは、カイシャの事務担当の女の子で、決して美人ではないけれど、いつでもニコニコしていて、どんな面倒なことを頼んでも嫌な顔ひとつせず、「ハイ!」と気持ちのいい声で返事をしてくれる、とってもいい娘だ。
僕が将来結婚して娘を持つことになったら、是非ともマリちゃんのように育って欲しいものだと常日頃から思ってる。
そう、ある意味、彼女は男の理想。「彼女」や「恋人」としてのそれではない、というのが、ちょっと・・・かなり、微妙だけれども。
少なくとも会社で共に働く女の子としては最高の存在。
そんなマリちゃんと、妙なことになってしまったのは1年半ほど前のこと。

終業後に会社近くの飲み屋でオトコばっかりでグダグダと酒を飲んでいるところに、彼女が明日の出張に持って行く書類のことで僕の携帯を鳴らしたのだった。
はっきり言って、どーでもいいタイプミスだったんだけど、彼女の『事務員としてのプライド』(そう言った)が、どーしてもそれを良しとしなかったらしい。
『良かったぁ、捕まって!! あの、差し替えたいんで・・・。今からそこ、行きますねっ!』
「うん、じゃ、待ってる〜」
ってなワケで、わざわざ飲み屋にまでパタパタと駆けつけてきてくれた(しかも、僕の書類のために!)彼女をそのまま帰すのも忍びなく、一緒に飲み始めた次第。
カイシャの噂話や、愚痴や、そんなことで一通り盛り上がり(また、マリちゃんが・・・聞き上手なんだ、これが!)、気付いたら終電がない時刻に。
僕以外の男共は、サウナに泊まるから、と夜の町へと消えていき、残されたマリちゃんと僕はえーと、何となく(酔ってたし!!!)、そーいう・・・帰りがたいっていうか、離れがたいって云うか、その場の雰囲気と盛り上がりに負けたというか・・・2人ともオトナだし、特に決まった恋人がいるわけでもないし、一人暮らしだし、タクシー代より安いし・・・(説明しにくいよね?こういうのってね? その場の空気だからね!)ってな感じで・・・うん、まぁ。
そういうことになったの・・・でした。(いきなり丁寧語)
翌朝早く、シャワー音で目覚めて、「しまったな・・・」と思わないでもなかったんだけど。
バスルームから出てきたマリちゃん(バッチリ、服着込んでました!)は、いつも通り。
「10時の新幹線でしたよね? 今出れば、一回家に帰って着替えて、間に合いますよ!
あたしは、今日、半休しちゃいます。ちょっとズルだけどっ」
とか云いながら、ニコッ。
みっともないと思いながらも、おずおずと・・・(だって、これで“彼女になった”とか思われたらちょっと・・・困る・・・)
「あの・・・このこと・・・」
と、僕がいいかけた時だけ、ちょっと悲しそうな顔でうつむいたものの・・・その後、ちゃんと「分かってます。意味、ないんですよね。事故・・・みたいなもんで。大丈夫。誰にも云わないし、何も変わりません」
キッパリ言って、また、笑ってくれた。
そしてその宣言通り、その後カイシャでも何事もなかったかのように接してくれた。
最初は、ビクビクしていた僕(ああは言ったものの、誰かに言ったんじゃないか、彼女ヅラし始めるんじゃないかと)も、次第に、どうやら面倒なことにはならないらしいことを確信。
見事に「一夜限りの遊び」を、彩ってくれた、の、だった・・・・。

正直な気持ちを言えば・・・。
もーう、マリちゃん、サイコー!!
オトコの狡さを黙って許してくれるマリちゃん、理想の女マリちゃん。
君に恋をできたら、どんなに良かったか。
ごめんね。ありがとう。そして、さようなら。
彼女の送別会の後、飲み足りなくて何となく集まった4人で飲みながら、僕は一人、しみじみとそんなことを思っていた。
馬鹿話が一段落してから、ふいに、中の一人がぽつんとつぶやいた。
「あのさ・・・。誰にも言うなよ? 俺・・・。実は昔、マリちゃんと一回だけ・・・」
場に衝撃が走り、空気が一瞬凍った。
直後。
『え〜っ!? オマエもっ!?』
僕を含めた3人の声がハモった。・・・ハモった? ハモっったぁぁぁ!?
『エ〜〜〜〜〜〜ッ!!!?』
ビックリしてお互いに顔を見合わせる。どれも、嘘を言っている顔ではない。
・・・ってことは?
・・・マリちゃん。僕らの理想の女、マリちゃん。君は案外、したたかな女だったんですね。
僕らみんな、君を食ったつもりでいたけど・・・実は、君に、食われていたんですね・・・!?
ショックの波が引いた後・・・何故か笑いがこみ上げてきた。
僕の隣のヤツも、正面のヤツも、同じ顔してる。
「参ったなぁ、おい」
「うん、参った」
「完敗」
「正に」
その後、僕らは新しいビールを4つ頼んで、声高らかに、彼女に向かって乾杯したんだ。
心から、彼女の幸せを祈って。
僕らのマリちゃんに・・・乾杯ッ!!!!

A Theatrical Campany yakoudou