夜光堂TOPそこ、零れてる!!僕んちのたんす



Missing



彼女が俺の部屋を出て行ってから、1ヶ月近くになる。
もうそろそろ諦めるべきじゃないかという、頭の片隅からする声を無視して、俺は今日も仕事帰りに、彼女を捜しに夜の町へと出る。
何処だ。何処へ行ってしまったんだ、アミ。

彼女に初めて会ったのは、ネオン輝く酒場と酒場の間にある狭い路地裏だった。
もう、何が原因だったのかすっかり覚えていないのだが、やけくそな気分で好きでもない酒をしたたかに飲んでいたお陰で、俺の状態は最悪で、むかむかする胃の中の塊を吐き出す場所を求めて、ふらふらとそこに迷い込んだのだ。
人間が体内から出しうる中でも最悪の部類の音を立てて、全てを吐き出し、息ついた俺の視界の中に、ふいに彼女は姿を現した。
大量のビール瓶の横に座り、じっと俺を眺める姿にはすさまじい色気があった。
「何だ、お前・・・。こんなところで何をしている?」
みっともないところを全て見られていた気恥ずかしさもあって、俺はぶっきらぼうな声を出して、身をかがめ、彼女に向かって手を伸ばした。別に、深く考えてしたことじゃない。
酔っぱらいのする愚行だ。
即座に顔をしかめ、俺の横をすりぬけて逃げる・・・と思った。のに。
するり。
彼女はしなやかに俺の腕の中に飛び込んできた。そして安心したような吐息を一つ漏らしてうっとりした顔で目を閉じたのだ。
まるで、やっと居場所を見つけた迷子のように。
細い身体の中で脈打つ鼓動と、かすかな温もりを感じた瞬間、俺は彼女をしっかりと抱きしめていた。彼女の細い身体が砕けたりしないように、細心の注意を払いながらも・・・
しっかりと。
家に連れて帰り、蛍光灯の下で良く見れば、彼女が外国生まれであることがすぐに分かった。
名前が分かるようなものを何も身につけていなかったので、勝手に「アミ」と呼ぶことにした。
昔好きだった女の名前だ。やや吊り気味の目元が少しだけ似ている。
一体、どのくらいの時間をああして外で過ごしていたのか、アミは全身泥まみれだった。
嫌がって暴れるのを無理矢理押さえつけて風呂に入れたあと、冷蔵庫にあった賞味期限ギリギリの牛乳(俺の部屋にある食い物で彼女が拒絶しなかったものはそれだけだった)を、飲ませて、その日は眠りについた。
アミには、家中の座布団とタオルケットを総動員した寝床を作ってやり、そこで寝るようにと言い聞かせたのだが、彼女はものの数分でそこから飛び出し、俺の布団に入りたいのだと仕草で訴えた。
恐らく、人と寝床を共にすることに慣れているのだろう。これまでのアミの暮らしを思うと、胸が少しだけ痛んだが、自分の傍らに安らかな寝顔があるのは、悪い感覚じゃなかった。

こうして、俺たちの同居生活は始まった。

彼女は奔放で、閉じこめられるのを嫌がった。基本的にアパートは同居が禁止されていたので、アミが外出できるのは、人気のない夜だけに限られていた。
俺が仕事に出てる間、狭い部屋で孤独な時間を過ごすことが不満らしく、そのストレス解消のため、俺の部屋は毎日とことん荒らされた。最初の晩に彼女に与えたタオルケットなどは、早々にビリビリ引き裂かれ、ただのボロクズと化した。
料理などするはずもなく、仕事から戻った俺は彼女の食事の世話と部屋の片付けに追われた。
それでも、帰ってきたときに迎えてくれるものがいて、共に眠る暮らしは悪くなかった。
・・・少なくとも俺にとっては。
俺はアミのためにもっと広い部屋に越したいと思うようになり、毎日、必死で働いた。
アミは日がな退屈そうにゴロゴロと寝て過ごし、気が向いたときだけ、俺に寄り添いあれこれねだったり、甘えたりしてみせた。
ただ、どんなにねだられても、俺は決してアミを一人で外には出さなかった。誰かに奪われてしまうのが怖かったからだ。
そんな暮らしが、彼女の不満を日々高めていることに気付きながらも・・・。

ある晩、俺は奇妙な声で目を覚ました。寝惚けまなこで無意識に布団をたぐり寄せて・・・ふと気付く。
傍らで寝ているはずのアミがいない。
俺は慌てて身を起こし、辺りを見回した。
「アミ? どこだ?」
窓辺のカーテンが風にそよいでいた。奇妙な声は外から聞こえてきていた。
全身の血が逆流した。俺は飛び起きると、窓から身を乗り出して、そして・・・見つけたのだ。
月明かりの中、俺のアミがどこの馬の骨とも知れぬヤツと幸せそうに寄り添っているその姿を。
「アミ!!!」
俺の叫び声に、アミはめんどくさそうな視線をちらりと送って寄越し・・・そのまま、その場からするりと走り去っていった。
さよならも言わずに。
それきりだ。
無論、俺も後を追って走り出したが・・・時既に遅しで、アミの行方は杳として知れなかった。

その晩から毎晩、俺はアミを探して回っている。
あの路地裏にも、何度も何度も足を運んだが、アミはどこにもいない。
一人の寝床は味気がなくて、俺はその夜以来、布団で眠るのをやめた。
あんたたち、俺のアミを知らないか?
黒い毛並みに金色の目をした、アメリカンショートヘアーだ。

A Theatrical Campany yakoudou