夜光堂TOPそこ、零れてる!!僕んちのたんす




狐と狸



まさか・・・・なぁ・・・・。
何となく上目使いになって、ヤツの顔色を窺う。どことなくムッツリして不機嫌に見えるのは、車の運転があって、アルコールが飲めないのが不満だからなのか、禁煙席しか空いてなくてタバコが吸えないからなのか、はたまた・・・・・?
ああ、やっぱり止せば良かった。ヤツが「あそこでいい?」って車の中からこの店を指したとき何でもいいから理由をつけて、断れば良かった・・・・。後ろめたさがあったんで、つい、
「あ、こんなとこにイタ飯屋さんがあったんだぁ〜、気付かなかった〜!」
とか何とか・・・・ちょっとした小芝居をしてしまったのだ。
そう、あたしは本当はこの店を知っている。
だって、一週間前に来たばっかりだ。・・・・・目の前にいるのとは別のオトコと。
ええ、勿論二人っきりで。のみならず、あれで、それで・・・・・えーと、スミマセン、その晩はお泊まりでした。
・・・・だって、たまには別の人とイチャイチャしてみたかったんだもんっ!
フフフフ・・・・(乾いた笑い)。分かってますって。どんなに可愛く言ったって、あたしのしたことはヤツに対する裏切りであり・・・・褒められた所業ではない。
しかし、そのオトコとはその晩一回限りのお付き合いだし(っていうか、実は向こうも彼女持ちだったり。ダブル背徳ですね!)その日は知り合いに会わないように、そりゃもう細かく気を使って行動したし、「今日は友達とご飯食べて帰る。遅くなったら泊まるかも」というあたしの言葉をヤツは微塵も疑っていない様子だったし、(第一、あたしは一言も嘘は言っていない。ただ『友達』の性別を言わなかっただけだ)その後、詳しく訊かれもしなかったし・・・・。
・・・・でも・・・・まさか、バレた?
おかしいと思ったのよ、いつもファミレスにしか連れて行かないクセに『偶には違うところでメシ食おうか?』なんて気の利いたこと突然言い出したりするから! 根が単純なモノで、深く考えずに『わ〜い』とか言って付いてきてしまったよ。
罠か・・・罠だったのか、これ!?
でもなぁ・・・・そんな陰険なことするタイプかなぁ・・・・。どちらかって言うと直球勝負をかけてくる方だと思っていたんだけど。(そこが良くて、そこが物足りない。済みませんね、ワガママで)できることならば、この場から逃げ去りたい。針のむしろとは正にこのこと。
メニューを前に脂汗をたらたら流すあたしをヤツは不思議そうに眺める。
「具合悪いのか? 顔色悪いみたいだけど」
その言葉に、少なくとも嫌味の色は・・・・ないと思う。純粋にあたしを心配している感じだ。
いつものヤツの顔・・・・だと思う。もしかして、気のせい? 考えすぎ? 
あ、何かそんな気が。
そうよね、もし本当に何か知ってるんだとして、こうポーカーフェイスでいられるタイプではないわよね!! 
いつでも直球勝負のヒトだものね!
「い、いや、そおゆう訳では・・・・えっと、何にしようかなぁぁぁぁ〜」
何となく気が抜けて、改めてメニューに目を落とす。
「アナタはもう決めた?」
「えっと、オレ、ペペロンチーノと、シーザーサラダ」
うおう。それは、一週間前のオトコと同じメニュー!! カマ、か? カマをかけてるのか? やっぱり何か知っているのか!? 折角抜いた気が、またピンと張りつめる。
止まりかけていた脂汗も、たら〜り、たら〜り・・・・。
「あ、これ、オマエが好きなやつじゃない? うどんパスタ」
・・・・・フェットチーネだっつーの。何だ、うどんって。まったく、気の抜ける!
無邪気にメニューを指さすその顔に浮かぶのは・・・・やっぱりいつも通りの笑顔。
何となく挙動不審になっているあたしを気にする様子もない。
・・・・やっぱり勘ぐり過ぎか。世のオトコの大半の、「パスタのオーダー」と言えば、「ミートソース」か「ぺぺロンチーノ」か「ナポリタン」と相場が決まっているものだ。(あたしはこれを『オトコのパスタ選択三種の神器』と呼びたい)
偶々それが一週間前と被ったからと言って殊更邪推することもない・・・・のかも。
と、まぁ、食事の間中も、あたしの意識は「まさか!?」と「いや、気のせいか・・・?」を何度も何度も行ったり来たり。緊張と弛緩の繰り返しで、グッタリ、味も何も分かりゃしない。
でも、デザートを食べ終える頃には・・・『大丈夫、バレてない』って結論に辿り着いていた。
ヤツの性格、今の状況・・・・・どう考え合わせても腹にイチモツある感じじゃない。
ああああ〜心配して損しちゃった〜!!
ご機嫌で会計を済ませ、二人で仲良く車に乗り込む。
「ああ、やっと吸える〜」
よほど耐え難かったのか、エンジンをかけるより先にタバコに火を点けようとしたヤツの手元を何気なく見て・・・・・・心臓が凍り付いた。
「・・・・その、ライター・・・・」
「え?」
『HOTEL〜ROYAL〜』とプリントされた、その百円ライターは・・・・一週間前に泊まった、この店の先にあるホテルの備品。勿論、ビジネスホテルなどではない。
あたしはタバコを吸わない。一週間前の相手も。
故に、ライターを持ち帰ってくる筈も・・・ない。
そして。
あたしが・・・・ヤツとそのホテルに行ったことは・・・・一度も・・・・ない、のだ。
なのに。何故、そんなモノがここにある?
一瞬、やっぱりヤツは全てを知っていて、最後通牒を突きつけてきたのかと・・・・思った。
ここで反応したのは失敗だった、どうやって切り抜けようか、と目まぐるく考えを巡らしかけたとき。
自らの手元に落としたヤツの視線が「しまった!」って感じに揺れたのを見た。
「いや、え? あ、いや、これは・・・」
慌てた様子で意味のない言葉を繰り返すヤツ。泳ぐ視線。
・・・・まさか。まさか、まさか、まさか!!!
「・・・・誰と行ったの、そこ? この先にあるホテルのだよね、それ?」
我ながら恐ろしいほどにひく〜い声が出た。
自分のことは棚に上げ、あたしは怒り狂っていた。
・・・・畜生、ナメた真似してくれるじゃねぇか!! 妙にスマートにエスコートしてくれると思いきや、デートコース二番煎じかよ! 許せねぇ!!!
薄暗い車内で、あたし達はじっと見つめ合う。
「行ったのね? 誰かと! あたしじゃない誰かと?! それってどういうこと? 説明して」
「う・・・。いや、だから・・・これは・・・あれだよ、ほら・・・・」
畳み掛けるあたしに、しどろもどろなヤツ。
更に問いつめようとあたしが身を乗り出した、瞬間。
ヤツがハッとした顔でつぶやいた。
「でも、オマエは・・・・何でこれがラブホのライターだってすぐに分かったわけ?」
「う・・・ぐっ、そ、それは・・・・!!」
形成逆転。今度は、あたしが言葉に詰まり・・・互いに冷や汗を流しながら、あたし達は再び見つめ合う。
何とも言い難い緊張した空気が、間を流れていく・・・・・。
さぁ・・・・。どうする? どう出る!? 
思いがけず・・・・只今、修羅場でゴザイマス。



A Theatrical Campany yakoudou