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蛍 同僚の小西くんの恋人がまた変わったらしい。 私が知っている2年だけでも・・・・えーと・・・5人目で、今回の更新までの期間は2ヶ月だ。 全く、ようやるもんだと思う。 お義理で破局の理由はと聞けば、『カノジョ(何というか・・・カタカナっぽい感じの発音なのだ)の部屋のポプリ臭さに耐えられなくて』だという。 「オレ、キライなんだよ、ああいう、人工的な作られた匂いって・・・」 ポプリは天然だろう、馬鹿モノめ。要するに、良く人柄や趣味指向なんかを考えずに、ノリでホイホイ『お付き合い』を始めるから、そんなことになるんだ。 ついでに、新しいカノジョとは何処でどのように知り合ったのかを訊ねれば、「んー、友達の結婚式の二次会で、顔が好みだったんで携帯番号を聞いて〜。 2・3回電話して、気付いたらそんなことに」 「今度の日曜に水族館に行く約束したんだけどさ、何せ顔見るのその2次会以来だから、待ち合わせでちゃんと顔が分かるかが心配」 という、眩暈がしそうなくらいに素敵なお話だった。 いずれにせよ、彼の『カノジョ話』は酒の肴にうってつけなので、今日も私たちは会社近くの居酒屋で彼を囲んで飲んだくれている。 「小西くんは結婚する気とか、まだまだないって感じなわけ?」 新婚ホヤホヤのユリエさんが、生ぬるくなったお刺身を箸先で弄りながら訊ねる。 「いや? 30までにはしたいなと思ってますよ?」 「・・・あと5ヶ月しかねぇぞ」 ボソッと小声で突っ込んだつもりだったのだが、隣の席には聞こえたらしい。 「うっせ。オマエだって、同じだろうが」 イヤ〜な顔で睨まれた。 「あれ? 二人同い年?」 「あ、知ってる! しかも、誕生日3日しか変わらないの」 「へぇー、そーなんだぁ」 「そーなんです」 ビールをひとくち。マズイ。苦い。元々お酒に強い方ではない。そろそろソフトドリンクに切り替えようと思った瞬間、携帯が鳴った。 ユリエさんの。 「あ、ダンナだ」 イソイソと受話器を手に取る、ユリエさん。そりゃもう、幸せ満開って感じで受話器の向こうと話している。恋する女は綺麗だと、古今東西で言われていることだが、会社では男勝りで頼れる姉御、といった感じのユリエさんが、酔いの所為だけでなく頬を染めている姿は、お世辞抜きに可愛かった。 何となくその場の誰もが毒気を抜かれた感じで、目の前の皿やら飲み物に手を伸ばし、テーブルの上を片付け始める。 多分、『迎えに行くよ』コールだ。明日も会社だし、この辺でお開きになるのが妥当だろう。 「あ、タバコ切れた。ちょっと買ってくるわ」 空き箱をくしゃっと握りつぶして、テーブルの上に放ると、小西君は席を立った。 ちょっと考えてから・・・・ 「んじゃ、私、トイレ」 手近に置いておいたポーチを手に、私もその後を追った。 「・・・? 何だよ。トイレあっちだぞ?」 店の出口までヒタヒタと後ろをついて歩く私を怪訝そうに振り返り、小西君が言う。 私は笑いながら手にしたポーチを軽く振ってみせた。 「マルボロでよければあるよ、おにーさん?」 ギョッとした顔をされた。 「・・・オマエ、タバコ、吸うの?」 「吸うよ。会社では吸わないけど。ねぇ、店の前に灰皿あったよね、ちょっと付き合ってよ」 「・・・信じらんね。オマエ、確か、オフィス内禁煙派だったよな? あれは、ポーズか?」 「人の吐く煙はキライ。それに・・・私が我慢してるのに男の人だけ自由なんて許せない」 「何だ、そりゃ」 ブツブツ言いながらも、小西君は意外と素直に私の差し出したタバコを受け取り、自分の ライターで火を点けた。私も一本取って火を点ける。 二人で同時に煙を吐き出す。 「・・・・似合わねぇ」 「ウルサイ」 アルコールの後のニコチンは軽く頭の芯を痺れさせるような感じがした。 「小西君は・・・・ユリエさんのことが好きなんだねぇ」 頭の痺れと酔いに任せて、ポロッと言ってしまった。感覚が麻痺してるからなのか、しまった、とも思わなかった。 怒るかなと思った小西君は、ちょっとだけ眉根を寄せただけで、微かに笑って答えた。 「おう。そう言うオマエはオレのことが好きだな?」 あ、バレてる。 「うん。・・・上手くいかないねぇ」 「そうだな」 それから二本分の時間、私たちは黙って思い思いの方向を見ながらタバコをふかした。 夜道に二つの蛍が並んでいるみたいに見えてたらいいな、とちょっと思った。 |